• 公開日:2021年09月07日
  • | 更新日:2024年02月13日

電池残量を検出する方法 第1話 Gas Gauge(電池残量計)とは

はじめに

ノートPCやスマートフォンを使用される際、電池の残量がどれくらいあるか、あと何時間使用できるかを気にされたことがあるかと思います。
また、その精度が信頼できるかも気になる方はいるのではないでしょうか。電池残量の検出はGas Gauge ICと呼ばれるデバイスが担っており、Gas Gauge ICを使用することで、例えば±1%等の高精度の検出が可能です。
ここでは、Gas Gauge ICの役割、機能について説明していきます。

図1 Gas Gauge IC + 電池パックのブロック図
出典:Texas Instruments – データシート 『bq27421-G1 System-Side Impedance Track™ Fuel Gauge With Integrated Sense Resistor』
https://www.ti.com/lit/ds/symlink/bq27421-g1.pdf

Gas Gauge ICの役割(機能)

Gas Gauge ICの主な役割は、「電池残量の検出」を含めて以下5つになります。

1)電池残量の検出:残容量(%、もしくはmAh, mWh)、稼働可能時間(分)、充電時間(分)の予測
2)安全性の向上:電池の状態を監視して電池保護機能を制御する
3)アプリケーション設計、検証時の支援:ログデータから電池使用状況の確認、トラブル時の分析をする
4)システム稼働時間の向上:(電池駆動時に)電池容量を使い切る
5)サイクル寿命の延長:使用できる充放電の回数を増やす(=耐用期間の延長)

ここでは、Gas Gauge ICの主な役割である「電池残量の検出」に焦点を当てて説明します。

電圧測定方式と電流測定方式

電池残量の検出は、一般的に電圧測定方式電流測定方式(クーロンカウンター方式)という2通りの手法が用いられます。

電圧測定方式

電池は、図2のように放電容量が増える(=電池残量が減る)と電池電圧は低くなります。そのため、電池電圧を測定することでおおよその電池残量を確認することができます。


図2 放電容量と電池電圧の関係を表したグラフ(温度)

ただし、実際の電池電圧は電池容量によってフラットな領域と、その後の急峻な落ち込みの領域があることに注意が必要です。また、充放電中の電池電圧を測定すると、電池には図3のように“内部抵抗(RBAT)”があるため、充放電電流値によって電池電圧が変わってしまいます(放電電流値に比例して電圧降下が大きくなる)。
そのため、電圧測定方式では充放電していない時の安定した電池電圧を精度よく測定する必要があります。一般的に充放電していない時、つまり無負荷時の電池電圧をOCV(Open Circuit Voltage)と呼びます。

図3 電池モデル(電池内部抵抗はRBAT)

電流測定方式(クーロンカウンター方式)

電流測定方式は、充放電電流を時間単位で積算することで電池容量の変化分を測定する方法です。
放電前の電池容量(q0)がわかれば、電流測定方式で電池残量を確認することができます。

式1 電流積算による電池容量

電池の温度特性と経年劣化

電圧測定方式や電流測定方式によって電池残量を検出できる基本的なイメージはご理解いただけたと思いますが、実際の電池には温度特性と経年劣化があります。
もう一度図2(=図4)をご覧いただくと、温度によって電池電圧(電池容量)が変化することがわかります。


図4:放電容量と電池電圧の関係を表したグラフ(温度)

また、前項で電池の内部抵抗について触れましたが、内部抵抗値も温度によって変化します(温度が高くなると内部抵抗値は大きくなる)。内部抵抗値は電池の種類によってさまざまな値をとり、経年劣化によっても徐々に抵抗値が高くなる性質があります。内部抵抗値は充放電100サイクル後にはおおよそ2倍程度高くなるというデータもあります。以下の図5は、充放電1サイクル後と200サイクル後、500サイクル後の電池容量の変化で、充放電サイクルが増えるにしたがって電池容量が少なくなっていることがわかります。
そのため、精度よく電池残量を検出するためには、温度と経年劣化を加味した測定が必要になります。


図5:充放電サイクル後の電池容量の変化

実際に使用できる電池容量

電池容量というと、電池の公称容量を思い浮かべる方もいらっしゃるかと思いますが、公称容量は電池メーカーが規定した“ある条件下で放電させたときに取り出せる容量値、電池メーカーが指定する設計上の中心容量値”になり、実際に使用できる電池容量ではありません。
図6において、青の曲線は無負荷時の電池電圧であるOCVカーブを表しています。これを電池本来の容量と仮定するなら、例えば放電終止電圧(EDV:End Of Discharge)を3Vとした場合、電池本来の容量(Qmax)に対して、実際に使用できる電池容量は、放電電流がIの場合、電池電圧はI*RBAT(放電電流 x 内部抵抗)分ドロップしますのでQmaxよりも小さい容量になります。実際に使用できる電池容量の事を満充電容量(FCC:Full Charge Capacity)と呼びます。
電池残量を確認するときは電池の充放電がされている状態で確認したいケースがほとんどだと思いますので、電池残量を正しく検出するためには、FCCを正しく知る必要があります。


図6:電池本来の容量Qmaxと実際に使用できる電池容量FCC

電池残量を測定するためにはFCCの算出が必要

電池残量は、実際に使用できる電池容量(FCC)に対してどれだけの残容量があるかの割合を示したものになります。
式で表すと、以下のようになります。

SOC[%]=RM / FCC
・SOC(State Of Charge):電池残量[%]
・FCC(Full Charge Capacity):満充電容量[mAh]
・RM(Remaining Capacity):実際の残容量[mAh] ※FCC からQpass(使用した容量)を引いた容量


図7:FCCとRMの関係

FCCは放電電流量、温度、電池劣化具合などによって変化するパラメーターです。
Gas Gauge ICはメーカー独自のアルゴリズムによってFCCを予測することでRMを算出し、精度の良い残量検出をおこなっています。


図8:電池残量(SOC)を検出するためにはFCCを予測する必要がある

まとめ

本記事では、Gas Gauge ICの役割と、どのように電池残量を検出しているかの概要を説明しましたがイメージは付きましたでしょうか。
次回は、Texas Instruments社のGas Gauge ICに使われているアルゴリズムであるCEDV、Impedance TrackTMについての概要を説明したいと思います。

電池残量を検出する方法 第2話 Impedance TrackTMとは

Texas Instruments社の製品をお探しの方は、メーカーページもぜひご覧ください。

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・参考リンク:
-Fundamentals of battery gauging algorism:
https://training.ti.com/fundamentals-battery-gauging-algorithm