• 公開日:2023年03月07日
  • | 更新日:2023年03月09日

シャントレギュレーター「431」を攻略する!『その2』

  • ライター:短絡亭過電流

この記事の続きです。

前述の通り、入力側と出力側が絶縁された電源では、出力電圧のフィードバックに「431」とフォトカプラーを組み合わせた回路を用いることが多くあります。
この回路の基本動作は以下の通りです。
 ①2次側出力電圧(Vout)が上昇すると
 ②それに伴って「431」のRef端子の電圧も上昇
 ③「431」がIkaを大きく引き込み
 ④フォトカプラーのLEDに電流が流れLEDを発光させ
 ⑤フォトトランジスタがONすることによって、1次側制御部に2次側の電圧状態を伝えます。

また、周辺の回路ブロックとして、それぞれの役目は以下の通りです。
 (A)分圧抵抗 : 出力電圧を抵抗で分圧。分圧抵抗の中点電圧=「431」のVref でVoutを設定。
 (B)バイアス抵抗 : 「431」の動作に必要な電流を供給。おおよそ1mAに設定。
 (C)ソフトスタート : 起動時にフォトカプラーに電流が流れるため、Voutはゆっくりと上昇。起動時の突入電流を抑制。
 (D)補償回路 : 「431」の、Voutの変動に対する応答性を調整。応答性が早すぎると、制御が不安定になる。

(D)の補償回路に使われているCcomp1ですが一般的には「遅れ補償」、Ccomp2とRcompは「位相補償」と呼ばれます。

遅れ補償は、系の応答性が早すぎてその動作が不安定になる際に、『応答性を下げる(応答を遅らせる)ことで、系を安定化』させます。この時の「応答」とは、フォトカプラーの発光タイミングを指します。
Ref端子の電圧が高周波成分を伴って変動した際に、その過渡的に変化分を含むAC成分をVk側へ逃がし、「431」の反応を遅らせます。
更に、Voutが上昇することで「431」がIkaを大きく引こうとしますが、Ikaはフォトカプラーを経由するよりも先にCcomp1から引かれるため、フォトカプラーの発光タイミングがCcomp1の容量分「遅れ」ます。

動作的には「安定」し、出力発振は抑えられますが、副作用として前述にあるよう「応答」が遅くなるため、負過電流が過渡的に増大した際には、出力電圧が大きく沈み込みます。その対策としてCoutを積み増す必要が出てくるため、Ccomp1の値は、最終的には実機評価を行って決定します。

遅れ補償がフォトカプラーの発光タイミングに影響を及ぼすのに対し、位相補償は「431」の「感度」に対し影響します。
「431」はRef端子の電圧を入力にし、Ikaを引き込みますが、Vrefが一定の場合はVk(カソード電圧)が変動するだけではIkaを大きく引き込むことはありません。
位相補償は、Vkの比較的遅い周波数成分の電圧変化分をVref重畳させ、微小な変化分に対する応答性を高めます。この時、Ccomp2だけではVkの変化分がダイレクトにRef端子に伝わってしまうので、「過剰な反応」を示しますので、Rcompを直列に配置することでVkの変化分を減衰させます。
Ccomp2とRcompの値も、Ccomp1と同様に、最終的には実機評価を行い、調整の上決定します。
また、フォトカプラーの特性によってはCcomp1だけでも十分な場合もありますので、設計段階ではCcomp2とRcompは後々実装できるようにパターンだけ用意しておくのが一般的です。

さて、ここでTI社のシミュレーター『TINA-TI』を使って、電源IC LM5021-1 でVin=24Vdc Vout=5Vの絶縁フライバック型DC/DCを回路を作ってみました。


出典:Texas Instruments – TINA-TI

補償回路が無い/有る場合で、どのような差分があるか、負荷電流を振って確認してみました。

出典:Texas Instruments – TINA-TI


出典:Texas Instruments – TINA-TI

負荷抵抗を3Ωにしているので、出力電流は5V÷3Ω≒1.7Aになります。
無負荷時はどちらも5Vきっちり出力されていますが、負荷電流が引かれている箇所で顕著な差分が見られます。
補償回路「無し」では4Vまで低下していますが、「有り」では3.75Vまで低下しています。前述の通り、補償回路によって制御の「遅れ」が大きくなるため、過渡的な出力電流の変化に対し、瞬時に反応ができなくなり、電圧の低下が発生しています。
気になるところは、出力電圧が落ち込みから回復した直後です。拡大してみました。

出典:Texas Instruments – TINA-TI

補償回路「無し」では3Ω抵抗に電流が流れている場合、常に大きなリップル電圧(スイッチングノイズ)が存在しますが、「有り」では、若干線は太くはなっていますが、ほぼ気にならないレベルです。

ここまで読んだ方、ある疑問が出てくるものと思います。

   Ccomp1、Ccomp2、Rcompの値ってどうやって決定するの?

残念ながら「これでOK!」と断言できる解はありません。
補償回路の各定数は、実機でボード線図による位相余裕を測定し、調整することになります。その理由はフォトカプラーの特性が、個体や温度により大きくバラつくからです。
特にCTR(電流伝達率)は高精度なものでも80%(min)~160%(max)程度の公差があり、更に内部のLEDはダイオードなので空乏領域が寄生容量の様に作用するため伝達遅延が発生します。
上記のシミュレーション回路で用いているフォトカプラーのモデルは、CTR=100%固定であり伝達遅延やVfもない等、実機ではありえないため、このシミュレーション結果と実機の特性はイコールにはなりません。そのため、実機での調整こそが最良と考えます。

ただ、指標になる数値、とりあえず最初に「えいやぁ!」と置くべき数値は、筆者の中での一般的な数値としては、
 Ccomp1 100pF ~ 1nF 程度
 Ccomp2 1nF ~ 100nF 程度
 Rcomp 1kΩ ~ 22kΩ 程度
の範囲内に設定することが多いと思います。

ボード線図による位相余裕、ポールやゼロ、安定度の図り方に関しては、ループ補償(part2中級編)アナログ回路設計式一覧ポケットガイドを御参照下さい。