- 公開日:2025年08月13日
- | 更新日:2025年08月20日
【ルネサス社】ファームウェア開発不要!R-BMS Fで始める簡単バッテリーマネジメント
- ライター:Tomonari Kita
- バッテリー管理IC
はじめに
近年、電動工具・ロボット・掃除機・電動自転車など、バッテリー駆動の製品が急速に普及しています。
これらの製品において、バッテリーの安全性・寿命・性能を最大限に引き出すために不可欠なのが
「バッテリーマネジメントシステム(BMS)」です。
しかし、従来のBMSは「ファームウェア(F/W)開発が必要」「設定が複雑」「評価に時間がかかる」といった課題があり、
特に初めて導入する企業や設計者にとってはハードルが高いものでした。
そこで登場したのが、
ルネサスエレクトロニクス社(以下、ルネサス社)の提供するBMSスターターキット
R-BMS F (Renesas Battery Management System with Fixed Firmware)です。
この技術記事ではBMSの導入を検討されている方を中心に、以下の内容を分かりやすく解説致します。
✓R-BMS Fの概要と導入のメリット
✓評価キットの使い方と設定方法
✓実際の導入ステップと注意点
R-BMS Fの詳細仕様や最新情報については、ルネサス社の公式サイトをご参照ください。
👉 Battery Fuel Gauge IC R-BMS F | Renesas
R-BMS Fの概要:ファームウェア不要で始められるバッテリーマネジメント
■R-BMS Fとは?
R-BMS F(Renesas Battery Management System with Fixed Firmware)は、
電池残量管理ICであるFGICに、あらかじめ固定ファームウェアが書き込まれているバッテリーマネジメントソリューションです。
従来のBMSでは、マイコンにファームウェアを書き込み、動作ロジックを自作する必要がありました。
R-BMS Fでは、バッテリー管理に必要な機能があらかじめICに書き込まれているため、ファームウェア開発が不要になっています。
■ FGICとは?
ルネサス社の提供するFGIC(Fuel Gauge IC)は、リチウムイオンバッテリーの電圧・電流・温度を測定し、残量を計算する電池残量管理の専用ICです。
これにより、バッテリーの状態をリアルタイムで把握し、安全に制御することが可能になります。
FGICのラインアップについて、詳しくはこちらの記事を参照ください。
👉ルネサス 電池残量管理IC製品 – Renesas – マクニカ
■ R-BMS Fの主な特徴
R-BMS Fには以下の特徴により、初めてBMSを導入する方でも安心して使用できます。
特徴カテゴリ | 内容 |
✅ ファームウェア開発不要 | FGICに固定ファームウェアが内蔵されており、ユーザーによる開発は不要 |
✅ GUIで簡単設定 | PC用GUIツール(R-BMS F Tool)でパラメータ設定・モニタリングが可能 |
✅ 安全機能を標準搭載 | 過電圧・低電圧・過電流・短絡・高温・低温などの保護機能を内蔵 |
✅ 残量管理機能 | FCC(満充電容量)、RC(残容量)、RSOC(相対残量)を自動計算 |
✅ FET制御 | 放電・充電のON/OFF制御が可能 |
✅ 設計工数の削減 | 評価モジュール(EVM)とGUIツールで短期間設計可能市場投入までの時間を短縮 |
■ R-BMS Fのメリット
R-BMS Fは専用のツールでFGICの制御に必要なパラメータを設定するため、
ファームウェアの開発が不要となり、市場投入までの期間を短縮可能です。
図.1 設計工数の削減イメージ
システム構成と動作イメージ
■ R-BMS Fの基本構成
R-BMS Fを使用するシステム構成図は下記になります。
EVM: Evaluation Module
図.2 R-BMS Fのシステム構成図
R-BMS Fを評価するためには、ルネサス社が提供する評価モジュール(EVM)を使用します。
EVMには、あらかじめR-BMS Fの固定ファームウェアが書き込まれており、すぐに評価を開始できます。
注意:IC単体購入時にはR-BMS Fの固定ファームウェアは書き込まれていません。
■ 各構成要素の役割
要素 | 説明 |
EVM | R-BMS Fの固定ファームウェアがFGICに書き込まれており、電圧・電流・温度の測定、安全制御、残量管理を実行。 |
USB SMBus I/F | PCとEVMを接続するインターフェース。SMBus通信を使用。 |
PC(R-BMS F Tool) | GUIツールを使ってパラメータを設定し、EVMに書き込み。 設定後はリアルタイムでモニタリングも可能。 |
■ 動作の流れ
- EVMにあらかじめ書き込まれているR-BMS Fファームウェアが、バッテリーの状態を常時監視。
- PC上のR-BMS F Toolで、電圧・電流・温度のしきい値などのパラメータをGUIで設定。
- 設定されたパラメータはUSB経由でEVMに書き込まれ反映。
- GUI上でリアルタイムの動作状態をモニタリング可能。
評価キットと準備物
■ 評価キットの構成
ご購入頂くと評価キットが届きます。評価キットには以下の構成が含まれます:
構成要素 | 内容 |
EVM(Evaluation Module) | FGIC搭載、電圧・電流・温度測定、安全制御、残量管理機能付き |
USB-SMBusインターフェース | PCとEVMを接続するための通信ケーブル |
接続用ワイヤ | バッテリーセルとの接続に使用 |
マニュアル・回路図 | 設定方法や動作確認手順を記載 |
図3. R-BMS F評価キット例
■ 必要な準備物
評価を始めるには、以下の機材・環境が必要です:
項目 | 内容 |
PC(Windows推奨) | GUIツールをインストールして操作 |
R-BMS F Tool | ルネサス社提供のGUIツール。パラメータ設定・モニタリングが可能 |
USB-SMBusケーブル | 評価キットとPCを接続するため |
電源 | バッテリーセルに適した電源供給 |
バッテリーセル | 評価対象のリチウムイオン(セル数はICにより異なる) |
■ 評価開始までの流れ
- 評価キットを開封し、PCと接続
- R-BMS F Toolをインストール
- GUI上で初期設定ウィザードを実行
- パラメータを設定し、EVMに書き込み
- モニタリング画面で動作確認
GUI(R-BMS F Tool)を使ったR-BMS F構成パラメータの設定方法
R-BMS Fでは、評価キットとPCを接続し、GUIツール(R-BMS F Tool)を使って構成パラメータを設定します。
ファームウェアはすでにFGICに書き込まれているため、ユーザーはGUI上で必要な値を入力するだけで評価を開始できます。
ここから、R-BMS Fを最低限動作させるためのGUI設定手順 をご紹介します。
とても簡単な、たったの4ステップでBMS設定が完了します。
是非ご参考下さい。
■ 設定開始手順(TOPページの操作)
評価キットをご購入頂くと、R-BMS F Toolのインストールが可能となります。
評価キットをPCに接続(USB-SMBusケーブル使用)してR-BMS F Toolの使用が出来ます。
✅ ステップ①:R-BMS F Toolを起動
- R-BMS F Toolを起動すると、画面右側に「FUNCTION CONFIG」というボタンがあります。
- このボタンをクリックすると、初期設定ウィザード画面が展開されます。
- 「This page will help you to configure the FGIC Parameters.」という案内が表示され、設定を開始できます。
図4. R-BMS F Tool TOP画面
✅ ステップ②:R-BMS F Toolを起動
以下の項目をGUI上で順番に入力します:
No. | 設定項目 | 例 | 説明 |
1 | 使用セル数 | 10 cells | バッテリーの構成 |
2 | 公称容量 | 3000 mAh | バッテリーの定格容量 |
3 | 最大動作電圧(セル単位) | 4200 mV | フル充電時の電圧 |
4 | 0%容量電圧 | 3000 mV | 空容量とみなす電圧 |
5 | パワーダウン電圧 | 2500 mV | 充電器待機状態に入る電圧 |
6 | 最大充電電流 | 2100 mA | 設計上の上限値 |
7 | 最大放電電流 | 3000 mA | 設計上の上限値 |
8 | 最小充電電流(アクティブ時) | 50 mA | 動作下限 |
9 | 最小放電電流(アクティブ時) | 50 mA | 動作下限 |
10 | ウェイクアップ電流 | 10 mA | 低電力モードから復帰条件 |
11 | SMBusアラート通知 | No | 通知機能のON/OFF(トグルスイッチ) |
図5. 初期設定ウィザード画面 設定箇所
✅ ステップ ③:設定の反映
- 入力が完了したら、画面下部の「Use parameters below and update FIXED DATA」ボタンをクリック
→ この操作で、設定値がFIXED DATAウィンドウに転送されます(まだFGICには書き込まれていません) - 左メニューから「FIXED DATA」ウィンドウに移動
- 上部の「Write to Memory」ボタンをクリック
→ この操作で、設定値がFGICに書き込まれます - 上部の「Read from Memory」ボタンをクリック
→ この操作で、書き込まれたデータを読み込みます
図6. 初期設定ウィザード画面 Use parameters below and update FIXED DATA
図7. FIXED DATA画面
✅ ステップ④:動作確認
- TOPページから 「SYSTEM MONITOR」画面に切り替え
- 「Monitoring」ボタンをクリックして読み出し開始
電圧・電流・温度などがリアルタイムで表示されていれば、動作開始成功です!!
図8. SYSTEM MONITOR画面
✅ 補足:更に細かく特性の設定をする場合は・・・
初期設定ウィザードで入力する11項目(セル数、容量、電圧・電流条件など)だけで、R-BMS Fは測定・残量管理・基本的な保護機能を開始できます。つまり、評価キットを接続してGUIで初期設定を行えば、すぐに動作確認が可能です。
しかし、より高度な制御や製品仕様に合わせた調整を行うには、追加の設定が必要です。
■ より詳細な制御を行うには?
以下の機能に関する設定は、初期設定ウィザード以外の画面で設定を行います。
機能 | 必要な設定画面 | 説明 |
保護しきい値の微調整 | FLEXIBLE DATA | 過電圧・過電流・温度などの詳細なしきい値設定 |
FET制御の条件設定 | FIXED DATA / FUNCTION CONFIG(ADVANCED) | 異常時のON/OFF制御、復帰条件など |
LED表示のカスタマイズ | FIXED DATA | 残量表示や異常通知のLED制御 |
履歴データの確認・補正 | FLEXIBLE DATA | 使用履歴、温度履歴、最大電圧・電流などの記録と補正 |
通信設定の変更 | FIXED DATA | SMBusアドレスや通信速度の調整 |
キャリブレーション | CALIBRATION | 電圧・電流・温度センサの補正(精度向上) |
まとめ
この技術記事では、BMSの導入を検討されている方に向けて、
ルネサス社の固定ファームウェア型バッテリーマネジメントソリューション「R-BMS F」について、メリットと導入方法を中心に解説しました。
R-BMS Fは、導入のハードルが低く、かつ柔軟な拡張性を持つBMSソリューションです。
まずは評価キットで基本動作を確認し、必要に応じて詳細設定やキャリブレーションに進むことで、製品仕様に最適化されたバッテリー管理が実現できます。
今後のウェビナーや技術サポートも活用しながら、ぜひR-BMS Fの導入をご検討ください。