- 公開日:2019年10月04日
- | 更新日:2022年10月28日
産業用ネットワークの種類・最新情報 その2【FL-net、MECHATROLINKなどを紹介】
- ライター:Nobuyoshi
- その他
産業用ネットワークとは、工場で稼働している機器同士をデジタルの通信技術を用いて接続するというものです。以前の記事(https://emb.macnica.co.jp/articles/4277/)で概要と代表的な規格について紹介しました。今回は、産業用Ethernetの中から前回掲載できなかった規格について、簡単に概要を説明します。
産業用ネットワークの種類
産業用ネットワークを大別すると下記の3つに分類することができます。
- フィールドバス
- 産業用Ethernet
- デバイスバス
フィールドバスは、主にシリアル通信を用いて、モーターやセンサのような機器とコントローラ機器間の通信を行うものです。例としては、CC LinkやDeviceNet、PROFIBUS DP、HLS/CUnet等が挙げられます。これらの規格については、以前の記事で紹介しました。
産業用Ethernetは、機器間の通信をシリアル通信ではなく、Ethernetを用いて接続します。フィールドバスよりも一度に送れるデータ量が大きくなり、パフォーマンスが向上しています。また、TCP/IPをベースとした汎用の技術を用いることで、FA(Factory Automation)とIT(Information Technology)を連携させることが可能です。なお、通常のEthernetとは異なり、リアルタイム性を意識した造りになっています。代表的な規格として、CC Link IEやEtherCAT、EtherNet I/Pがあり、これらは以前の記事で紹介しました。この他にも、FL-NetやMECHATOROLINK、MODBUS TCP/IP、Sercosといったものがあります。これら産業用Ethernetの他の規格を紹介していきます。
デバイスバスについては、今回は取り上げませんが、センサやアクチュエータ等のより末端の機器との接続に用いられるもので、産業用Ethernetの機能を搭載するには価格的に合わないような機器に対して安く簡単に接続できるようにしているものです。例として、AS-InterfaceやIO-Link等が挙げられます。
なお、HMS社の情報によると、2019年の産業用ネットワークの市場シェアは下記のようになっています。フィールドバスの新規設置数が減少し、産業用Ethernetが59%を占めています。
出典元:産業用ネットワーク市場シェア動向 2019 (HMS 社統計)
FL-net(オープンな産業用ネットワーク)
ここからは、各産業用Ethernetの種類についての紹介をしていきます。
まずは、FL-net(FA Link network)を紹介します。
FL-netは、一般的なEthernetをベースにしたオープンな産業用ネットワークで、一般社団法人日本自動車工業会からの要求仕様を国内の制御機器メーカーが共同で開発したものです。他の産業用ネットワークのように特定のベンダが主導して開発されたものではありません。2000年にプロトコル指標書JEM1479 Ver.1.00 が発行され、2012年に最新仕様のVer3.0.1が発行されています。一般社団方針 日本電機工業会(JEMA)内のネットワーク推進特別委員会がFL-netの仕様の制定や管理を行っています。
【FL-netのポイント】
- FL-netは日本発のオープンネットワークであり、国内31社が検証・認定された製品を提供している
- 各機器が対等なマスターレス方式によるコントローラ間ネットワーク
- コモンメモリと呼ばれるメモリエリアを共有して、ユーザーは通信を意識することなく、すべての機器で同じデータイメージを持てる
- IEEE802.3の標準Ethernetの物理層、データリンク層を使用
- 指定の第三者試験機関で、適合性検証試験を行い、合格した製品だけに認定を与える方法をとっている
FL-netの仕様については下記の通りです。
項目 | 仕様 |
---|---|
電装媒体 | 10BASE-2, -5, -T/100BASE-TX, -FX |
物理層 | IEEE802.3 |
トポロジ | バス型、スター型 |
最大ノード数 | 254局 |
交信権制御方式 | トークンパッシング方式 |
プロトコル | UDP/IPベースFAリンクプロトコル |
ネットワーク設定通信 | ネットワーク設定パラメータ用の専用サーバ機能(TCP/IP) |
汎用通信重畳 | TCP/IP、UDP/IPなどFAリンクプロトコル以外の通信の重畳可能 |
伝送サービス | サイクリック伝送サービス 全局で8kbit+8kwordのコモンメモリ |
メッセージ伝送サービス 1:1伝送、1:N伝送、最大1024バイト | |
負荷測定サービス | |
I/O定義設定サービス、勧誘サービス | |
伝送性能 | 32局、2kbit+2kwordデータを50msでリフレッシュ(更新) |
MECHATROLINK(安川電機社が開発した産業用ネットワーク)
次は、MECHATROLINKについて紹介します。
MECHATROLINKは安川電機社が開発した産業用ネットワークで、普及型ネットワークのMECHATROLINK-IIと高速・高機能な用途にも対応できるMECHATROLINK-IIIという2つのネットワークの世代があります。これに加えて、最新仕様のMECHTROLINK-4が2017年に発表されています。推進団体としては、2003年にMECHATROLINK MEMBERS CLUBが発足し、現在はMECHATROLINK協会として使用の管理や普及活動が行われています。
【MECHATROLINKのポイント】
- MECHATROLINK-IIIは安川電機が開発したEthernetベースのモーション制御ネットワーク
- カスケード型、スター型の接続に対応し、マスター・スレーブ方式で通信
- 伝送距離は曲間最大100mで、伝送速度は100Mbps
- 国際基準に対応(IEC61784 フィールドネットワークプロファイル、IEC61158 フィールドネットワークプロトコルとサービス)
- MECHATROLINK協会にて仕様の策定、管理、普及活動が行われている
MECHATROLINKの各バージョンの仕様については下記の通りです。
項目 | MECHATROLINK-II | MECHATROLLINK-III | MECHATROLINK-4 |
---|---|---|---|
コマンド、プロファイル | M-II通信コマンド | M-III標準プロファイルM-II互換プロファイル | M-4標準プロファイル |
最大接続局数 | C1マスター:1局 C2マスター:1局 スレーブ:30局 |
C1マスター:1局 C2マスター:1局 スレーブ:62局 |
最大128局 (マスター最大:8局 スレーブ最大127局) |
伝送周期250usあたりの 最大スレーブ局数 |
2 | 10 | 46 |
サイクリック通信伝送データ長 | 17バイトまたは32バイト (マスター/スレーブ共通) |
32バイトまたは48バイト (マスター/スレーブ共通) |
16バイトから1,492バイト (マスター/スレーブ個別) |
マルチマスター | 非対応 | 非対応 | 対応 |
複数伝送周期 | なし | なし | あり |
全二重/半二重 | 半二重 | 半二重 | 全二重 |
IP通信 | 非対応 | 非対応 | 対応 |
Ethernet | 非互換 | 物理層のみ互換 | 互換 |
伝送速度 | 10Mbps | 100Mbps | 100Mbps |
伝送距離 | 総延長50m | 局間100m | 局間100m |
接続形態 | カスケード | カスケード/スター | カスケード/スター |
MODBUS/TCP(Modicon社が開発したプロトコル)
次は、MODBUS/TCPについて紹介します。
MODBUSプロトコルは、アメリカのModicon社がPLC(Programmable Logic Controller)用に開発した通信プロトコルです。元々はシリアル通信で開発されましたが、1997年にSchneider Electric社によりMODBUS/TCPの通信仕様が公開され、現在は、Modbus-IDAで標準化の活動が行われています。MODBUSは、OSI(Open System Interconnection)参照モデルの中の第7層(アプリケーション層)に位置するプロトコルです。標準のEthernet通信上で簡単に実装が可能ですが、リアルタイムな通信を保証するものではありません。
【MODBUS/TCPのポイント】
- Modicon社がPLC向けに開発したプロトコル
- データモデルとアドレスモデルの2つをベースにファンクションコードで、データに対するアクセス制御を行う
- MODBUS/TCPは汎用のTCP/IPが使用可能で、ポート番号502を使用
- マスター/スレーブ方式だけでなく、1:1通信も可能
- ユーザーやベンダから成る標準化団体、Modbus-IDAにて管理、推進が行われている
Sercos(ドイツの規格団体が確立したプロトコル)
次は、Sercosについて紹介します。
Sercos(SErial Real-time COmmunication System)は、30年以上前から産業機器向けのシステムバスとして使用されてきました。1980年にドイツのZVEI(ドイツ産業電気工業会)がアナログI/Fを更新し、VDW(ドイツ工作機械工業会)がデジタルでオープンなインターフェースを規定しました。SercosIIIは2005年に確立されたEthernetベースの第3世代の規格になります。Sercosの技術はドイツにあるSercos Internationalが管理し、標準化や認証、規格の推進を行っています。
【Sercosのポイント】
- ドイツの規格団体が確立したプロトコル
- 最大31.25usの高速同期精度で、時間確定性のあるリアルタイム通信を実現
- TDMA(時分割多重アクセス)により、他のEthernetとの共存が可能
- マスター/スレーブ方式に加え、スレーブ同士間でマスターを介さずリアルタイムな通信が可能
- 700以上の標準プロファイルを持ち、さまざまなデバイス間で相互通信が可能
- Sercos Internationalが管理、推進を行っている
Sercos I ~ IIIの違いは下記の通りです。
Sercos I | Sercos II | Sercos III | |
---|---|---|---|
実装された年 | 1987 | 1999 | 2005 |
物理媒体 | 光ファイバ | 光ファイバ | Ethernet (ツイストペアケーブルまたは光ファイバ) |
ネットワークトポロジ | リング | リング | ラインまたはリング |
伝送速度 | 2/4Mbps | 2/4/8/16Mbps | 100Mbps全二重 |
サイクルタイム | 最短62.5us | 最短62.5us | 最短31.25us |
ジッター | <1us | <1us | <1us |
同期 | ハードウェア同期 | ||
基本プロトコル | HDLC | Ethernet | |
リアルタイムプロトコル | Sercos(TDMベース) | ||
ハードウェア冗長 | なし | なし | あり(リングトポロジー使用時) |
ダイレクト相互通信 | なし | なし | あり |
コントロールシステム間通信と同期 | なし | なし | あり |
サービスチャネル | あり | あり | あり |
任意のUCチャネル | なし | なし | あり |
ホットプラグ | なし | なし | あり |
マスター数 | 1リングに1 | 1リングに1 | 1リングに1または1ラインに1 |
ノード数 | 1リングに254、複数リング可 | 1リングに254、複数リング可 | 1リングまたは |
プロファイル | ドライブ、I/O | ドライブ、I/O | ドライブ(電気、空圧、油圧)、I/O、エンコーダ、エネルギー |
PROFINET(シーメンス社が開発、PIが管理するプロトコル)
最後に、PROFINETについて紹介します。
PROFINETはドイツのシーメンス社によって開発され、1999年にPI(PROFIBUS & PROFINET International)が発表した産業用Ethernetのプロトコルになります。PIにて規定・管理が行われており、国際規格IEC61158/61784を取得しています。世界各国にあるRPA(Regional PI Association)の会員になることで、無償で技術を使用し、機器の開発や販売を行うことが可能です。
【PROFINETのポイント】
- シーメンス社によって開発、PROFIBUS & PROFINET Internationalにて管理が行われている
- 最小構成として、IOコントローラ、IOデバイス、スーパーバイザの3つで構成され、コントローラとデバイスは1:1で接続する
- リアルタイム性を実現する手段としてRT(Real Time)、IRT(Isochronous real time)の2つの方式を持つ
- 各機器がIPアドレスを持ち、TCP/IP通信との共存が可能
- スター、ライン、ツリー、リング等のトポロジ、また同線、光ファイバ、無線等の媒体が使用可能
- 今後は、IEEEで標準化を進めているTSNを用いることで、容易にリアルタイム性を確保することが可能
まとめ
今回は、以前の記事では紹介しきれなかった産業用Ethernetの規格について紹介しました。産業用Ethernetは多数の規格が存在していて、ある一つの標準的なものがあるわけではありません。それぞれの規格には、開発した各メーカーの意向もあり、確立された背景や歴史もそれぞれです。機器を開発するうえでは、それぞれの規格の特徴を理解し、機能面や開発や導入に関わるコスト等を比較したうえで判断する必要があります。
また、一つの機器で、複数の規格、プロトコルをサポートする必要が出てくることもあります。一つの例として、TI社のSitara Processorでは、メインのARM Cortex Aプロセッサに加えて、PRU-ICSS(Programable Real-time Unit-Industrial communication Sub System)と呼ばれるコプロセッサを内蔵しており、ソフトウェアを変更することで、多数の産業用Ethernetに対応することが可能です。
詳細は下記の記事(SitaraプロセッサによるEtherCAT通信の紹介)をご覧ください。
https://www.fujiele.co.jp/semiconductor/ti/tecinfo/news201705300000/
産業用ネットワークの機器を開発するうえでの参考になれば幸いです。
また、各プロトコルのさらに詳細な説明や、最新の状況、その他の規格についても、今後の記事で取り上げていく予定です。
産業用ネットワークについてのお問い合わせはこちらにお願いします。
引用
FL-net
https://www.jema-net.or.jp/English/businessfields/standarization/opcn/
MECHATROLINK
http://www.mechatrolink.org/jp/download/files.html
MODBUS/TCP
http://www.modbus.org/about_us.php
Sercos
https://www.sercos.org/downloads/graphic-materials/
PROFINET
http://www.profibus.jp/technology.html