- 公開日:2021年09月09日
- | 更新日:2022年11月30日
電池残量を検出する方法 第2話 Impedance TrackTMとは
- ライター:Yaita
- バッテリー管理IC
はじめに
Gas Gauge ICは電池残量の検出をおこなうデバイスの事です。第1話では、Gas Gauge ICの役割と、どのように残量検出をおこなっているかの基本概念を説明しました。
電池残量を検出する方法 第1話 Gas Gauge(電池残量計)とは
Gas Gauge ICはこれら基本概念を元に、メーカー独自のアルゴリズムを取り入れる事で精度の良い残量検出をおこなっています。
本第2話では、Texas Instruments社(以降、TI社)のGas Gauge ICに使用されているアルゴリズム“CEDV”と”Impedance TrackTM”について概要を説明したいと思います。
TI社の残量検出アルゴリズム
TI社の残量検出アルゴリズムはImpedance TrackTM、CEDV、EOSの3種類があり、そのアルゴリズムを用いた製品がリリースされています。これらは、その特長からターゲットとしているアプリケーションが分かれています。
・Impedance TrackTM:高精度の残量検出が求められるコンシューマーアプリ向け
・CEDV(Compensated End of Discharge):大きなパルス負荷や、常に充放電がおこなわれるような産機アプリ向け
・EOS(End of Service):あまり放電されず満充電状態が継続するようなアプリ向け
ここでは、CEDVとImpedance TrackTMに焦点を当てて説明していきます。
CEDV(Compensated End of Discharge)
まずはCEDVについて説明します。
CEDVは、第1話で説明した電流測定方式(クーロンカウンタ方式)を使ったアルゴリズムです。
電池残量は前の記事で SOC[%] = RM/FCC という式で計算されることを説明しました。
図1:FCCとRMの関係
実際に使用できる電池容量であるFCC(Full Charge Capacity)は、図1のように、満充電(SOC=100%:電池電圧4.2V)の状態から完全放電(SOC=0%:電池電圧3V)までに使用した電荷量を電流測定方式で算出することはできますが、通常、電池残量は、ユーザーに残量が残り僅かであることを警告するために完全放電する前に算出する必要があります。そのため、CEDVでは電池残量が7%と3%時にFCCを更新する仕組みをとっています。
図2:CEDVでは 電池残量が7%と3%時にFCCを更新
電池残量が7%と3%時にFCCを更新する場合、例えば図2のように電池残量が3%の時の電池電圧をEDV1、7%の時の電池電圧をEDV2とすると、EDV1とEDV2は放電電流や温度に依存するため、EDV1とEDV2を正しく検出するためには実際の電池のモデリングが必要になります。電池のモデリングはGPCCEDVツールを使っておこないます。
-GPCCEDV:
https://www.tij.co.jp/tool/jp/GPCCEDV
GPCCEDVでは、実際に使用する電池を用いて、3つの温度条件下(5℃, 30℃, 50℃)と2つの異なる放電レート(使用アプリケーションにおける平均のtyp, max電流値)でそれぞれ満充電から完全放電までの計6つのデータを取得することで、その電池のプロファイルに一致するCEDVパラメータが提供されます。そのパラメータを使用することで正しいEDV1, EDV2の値がGas Gauge ICによって算出される仕組みです。言い換えると、任意の放電電流や温度条件下において、電池残量が7%と3%になる時のEDV電圧(EDV1, EDV2)をリアルタイムに算出し、電池残量が7%と3%になった際にFCCを更新することによって電池残量を検出するアルゴリズムです。
図3:電池のモデリングにより、放電電流や温度に依存するEDVを算出することが可能
Impedance TrackTM
次にImpedance TrackTMについて説明します。
CEDVは電流測定方式(クーロンカウンタ方式)のみを使ったアルゴリズムですが、Impedance TrackTMは電圧測定方式と電流測定方式(クーロンカウンタ方式)のコンビネーションを使った(※)、より高精度な電池残量検出アルゴリズムです。
※無負荷時に電圧測定方式、放電時に電流測定方式を使います。
また、電池の内部抵抗をリアルタイムで測定、更新することをおこなっており、これがImpedance TrackTMと呼ばれている所以です。
Impedance TrackTMは、電池のケミストリーに関連する情報(ChemID)であるOCVテーブルと、電池の内部抵抗情報であるRaテーブルをメモリー(データフラッシュメモリー)に格納します。
ChemIDは使用する電池のケミストリーにより固有の特性となるため、使用する電池が既存のchemIDリストに既に登録されていればそのままGas Gauge ICにプログラムすれば良いのですが、ChemIDリストに登録が無い場合は、GPCCHEMツールを用いて、使用する電池に近いChemIDを選択することになります。
-GPCCHEM:
https://www.tij.co.jp/tool/jp/GPCCHEM
また、Gas Gauge ICは、内部抵抗情報(Raテーブル)の更新と電池本来の容量であるQmaxの更新をおこないます。これを学習機能(ラーニング)といいます。内部抵抗とQmaxは経年劣化しますので、学習機能により、この変化をトラッキングできることになります。
Qmaxを更新するには、2点の、電池電圧が安定した(リラックス)ポイントが必要です。図4は緑色のポイント(OCV1, OCV2)がリラックスポイントであることを表しており、例えばOCV1のポイントからΔQだけ放電した後、OCV2のポイントがあったとすると、Qmaxは図4に記載されている式で算出でき、Qmaxが更新されます。尚、DOD(Depth Of Discharge:放電深度)は「FCCに対して放電した電気量の比率」で、OCV電圧を測定することで算出されます。
図4:リラックスポイント2点のOCVを測定することでQmaxが更新される
次に、内部抵抗情報(Raテーブル)の更新です。
内部抵抗値はOCV、電池電圧、放電電流値を用いて以下の式で表されます。
式1 内部抵抗値の計算式
内部抵抗値はリアルタイムで上記の式から測定され、データフラッシュメモリーに格納されているRaテーブルを更新していきます。
図5:電池の内部抵抗情報(Raテーブル)の更新
もう一つImpedance TrackTMの重要な機能は、定期的なシミュレーションを実行していることです。このシミュレーションによって、温度や電池の内部抵抗値が変化しても、それに応じて正しいFCCを予測することができます。
例えば現在DOD 60%のポイントにいるとするなら、そのポイントでの負荷条件で64%、68%、72%、・・・、終端電圧に達するまで(通常4%刻み)の各電圧を予測することでFCCを算出します。
図6:Impedance TrackTMによるFCC予測シミュレーション
最後に、Impedance TrackTMの特長をまとめると以下になります。
- ダイナミックな機能(ラーニング、シミュレーション)
温度、負荷、電池の劣化に追従することで精度の高い残量検出(稼働時間の予測)が可能 - 稼働時間の延長
精度の高い残量検出ができることで終端電圧を下げることが可能 - 使いやすさ
電池のキャラクタライゼーション(chemIDの取得)が容易
ホストでの複雑な計算や残量予測アルゴリズムの実施は不要
まとめ
本記事ではTI社のGas Gauge ICに使用されているアルゴリム“CEDV”と”Impedance TrackTM”について概要を説明しましたが、いかがでしたでしょうか。
次回は、これらアルゴリズムを含んだGas Gauge ICの設計手順、設計ツールについて説明したいと思います。
電池残量を検出する方法 第3話 Gas Gauge ICの設計フロー
・参考リンク:
-Fundamentals of battery gauging algorism:
https://training.ti.com/fundamentals-battery-gauging-algorithm